移行手続を全く進めていない公益法人様、まずは当事務所までご連絡ください(℡:052-253-6222)。ご案内の通り、移行申請の期限は平成25年11月30日ですが、焦る必要は全くありません。当事務所は多くの移行申請手続支援を行っており、ノウハウが集積されています。石川広紀税理士事務所におまかせ頂ければ、期限までに貴法人を一般法人もしくは公益法人へ移行完了頂くことをお約束します。
従来の公益法人制度とは異なり、その行う事業の公益性の有無にかかわらず、準則主義(登記)により簡便に法人格を取得することができます。法人設立の流れは次の通りです。
一般社団法人とは、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づいて設立された社団法人であり、設立の登記をすることによって成立する法人です。設立手続の流れは、次のとおりです。
(1)定款を作成し、公証人の認証を受ける。
(2)設立時理事の選任を行う。
(3)設立時理事が、設立手続の調査を行う。
(4)法人を代表すべき者が法定期限内に主たる事務所の所在地を管轄する法務局に設立の登記の申請を行う。
一般財団法人とは、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づいて設立された財団法人であり、設立の登記をすることによって成立する法人です。設立手続の流れは、次のとおりです。
(1)定款を作成し、公証人の認証を受ける。
(2)設立者が財産(価額300万円以上)の拠出の履行を行う。
(3)定款の定めに従い、設立時評議員、設立時理事、設立時監事の選任を行う。
(4)設立時理事及び設立時監事が、設立手続の調査を行う。
(5)法人を代表すべき者が法定期限内に主たる事務所の所在地を管轄する法務局に設立の登記の申請を行う。
任意団体から一般社団法人へ移行する場合、まずは一般社団法人を新たに設立する必要があります。財産は、任意団体から新設法人へ移行する必要があり、会員の移行手続もしなくてはなりません。一般社団法人への移行といっても、新たな一般社団法人の設立手続、任意団体での各種手続が必要になり、移行の決議だけで自動的に一般社団法人になるのではないことに注意が必要です。
なお、一般法人に衣替えすることにより、不動産等の財産を法人名義で取得することができるようになります。これにより、任意団体では不動産等を個人名義にするしかなかったものを法人の名義にすることにより、団体が所有する財産を明確化することができます。財産の明確化は、法人化の大きなメリットと言えます。
一般法人もしくは公益法人に移行するまでは旧主務官庁が丁寧に指導してくれましたが、移行後は法人自らが一般法人法、公益認定法、整備法及び定款に拠った法人運営が求められます。まずは、改めて定款をお読み頂き、記載されている各条文に沿って法人運営に取り組んでください。そして、定款に規定されていない(一般法人法をはじめとした)各法律を十分に理解して頂く必要があります。なぜなら、定款の中に法人運営に関する条文が全て網羅されているわけではないからです。各法律は多くの条文で構成されており、移行後の法人にとって、条文を理解することが一番大変です。もちろん法律を読み解かなくても、移行後の法人運営に関する書籍は本屋さんに並んでいますが、その内容を自らの法人に落とし込むのは難しいものです。例えば、次のような疑問があった場合、定款には載っていないため各法律を読んで対応方法を考えなければなりません。
「理事会と評議員会(総会)の間って何日空けるの?」
「これまで理事会と評議員会(総会)を同日に開催していたけど、移行後も可能ですか?」
「監査報告書は今までと同じものを使っても良いの?」
「計算書類等の備置きって何?本当に備置きする必要があるの?」
「招集通知に議案書を添付する必要があるの?」
「理事会等において決議事項と報告事項に分けるようですが、協議事項って使ってもいいですか?」
新法人移行後は、理事会・評議員会・総会の機関は各法律に沿って運営することが求められます。移行後すぐに、「招集権者は誰?」「招集通知はいつまでに送るの?」「決議方法はどのように行うの?」「監事は出席義務があるの?」「議事録の記載事項が法律で決まっているって本当?」「議事録署名人と登記の関係が難しい…」といった様々な疑問にぶつかると思います。この回答は各法律及び定款・諸規則に規定されており、仮に手続きに瑕疵があった場合は、開催された理事会・評議員会(総会)での決議が無効(取消し)となる恐れがありますので注意が必要です。
一方、知っていると便利な条文もあります。例として「決議の省略」が挙げられます。これは、理事会を開催するに際し構成員(理事等)が揃わず定足数を充たさない場合、また、緊急で決議頂く議案があるが理事の日程調整がつかない場合は、決議の省略を行うことにより、実際に理事会を開催したものと同等の効果が得られます。ただし、これを採用するための要件があり、整える書類も多いことから、全ての法人にとって有効とは必ずしも言えないので、法人内で検討頂きたいと思います。
(1)役員の責任
新法人と理事及び監事との関係は委任契約であり、法人から委任を受けて理事又は監事となった者は、善良な管理者の注意をもって業務を遂行しなければなりません。仮にこれらの者が法令や定款に違反したときは、違反であることを知らなかったとしても、善良な管理者の注意を払わなかったことになるので、法律上その任務を過怠したとして、法人に対する損害賠償責任を負うことになります。 特に競業の制限に違反して、理事又は第三者が利益を得た場合には、その利益の額だけ法人に損害が生じたと推定されます。あるいは、自己取引又は利益相反取引は、理事会の承認を受ければ許容されますが、これによって法人に損害が生じたときは、当該取引をした理事だけでなく、その取引をすることを決定した理事と、理事会の承認の決議に賛成した理事も含めて、その任務を怠ったものと推定されます。
(2)責任の免除
上記の損害賠償責任は、原則として総会員(総評議員)の同意があった場合には免除することができます。これは、総会員(総評議員)が損害賠償責任を免除することに同意した場合には、責任追及を個別に放棄したことになるからです。この免除方法は総会員(総評議員)の同意が要件であり、大変厳格になっています。そのため、法人法では、理事又は監事が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合に限り、損害賠償責任を一部免除する制度を設けています。さらに、法人法において、機動的な責任免除ができないと業務執行が萎縮するおそれがあることを危惧して、社員総会(評議員会)の決議に基づく場合とは別に、『理事会の決議によって責任の一部を免除することができる』旨、定款に規定できるとされています。大変有効な規定になりますので、関心のある法人様は当事務所にお問合せください。
(3)第三者への責任
前述の法人に対する損害賠償責任とは別に、法人法では第三者に対する責任について規定されています。すなわち、理事又は監事がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該理事又は監事が、直接、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います。この場合の第三者に対する責任は、「悪意(法令違反を知っていたこと)又は重大な過失(法令違反を知らなかったことに重大な過失があること)があったとき」に限られていますので、立証責任は損害を受けた第三者が負います。法人に対する責任よりも要件が厳しいこともあって、責任の免除に関する規定は設けられていません。
一般社団・財団法人については公益目的支出計画の遂行状況に関する監査が義務付けられるなど、新法人における監事の監査は、従来に比べ業務量が増えています。具体的に、移行後の監事監査は「業務監査」と「会計監査」が求められています。法人によっては、これらを定款施行細則もしくは各規程において規定しています(下記参照)。
第○条 監事は、理事の職務の執行を監査する。
2 監事は、次の各号に該当する事実があると認めるときは、その旨を速やかに理事会に報告しなければならない。
(1)理事が不正の行為をしたとき。
(2)理事が不正の行為をするおそれがあるとき。
(3)法令若しくは定款に違反する事実があるとき。
(4)著しく不当な事実があるとき。
3 監事は、その職務の遂行のため、いつでも、理事及び使用人に対して事業の報告を求め、又は本会の業務及び財産の状況の調査をすることができる。
第○条 監事は、各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書を監査する。
業務監査と会計監査に関する「監査報告」は、上記について適切に監査したことを記載して頂く必要があります。また、一般社団・財団法人については、初年度以降、監事は公益目的支出計画の遂行状況について監査することが求められ、その結果として「公益目的支出計画実施報告書」の監査報告を作成して頂く必要があります。このように監査報告書の内容も大きく変わることから、雛型を確認されたい法人様は当事務所までお問合せください。
なお、上記の監査内容に加え、監事の責任が重くなったのはご案内の通りですが、適切な会計監査が求められていることに対し、監事の適任者が見つからないというお話をよく聞きます。私は公益法人様の監事も務めていますので、就任のご要望等ございましたら、公益法人会計基準に精通した石川広紀税理士事務所までお問合せください。本当にご縁のお話と考えますが、いろいろと相談させて頂ければと思います。
一般社団法人の一年目が終わると、総会開催までのスケジュールは定款及び各法律に沿って進めて行く必要があります。決算に関する手続きは、一般的に貴法人の定款に規定されていると思います。また、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第127条第1項に公益目的支出計画の遂行状況を表す「公益目的支出計画実施報告書」の作成も義務付けられています。
一般的な定款の規定
(決算)
第○条 本会の事業報告及び決算については、毎事業年度終了後3箇月以内に、会長が次の書類を作成し、監事の監査を受け、理事会の承認を経て総会に提出し、第1号の書類についてはその内容を報告し、第2号から第4号までの書類については承認を受けなければならない。
(1)事業報告
(2)貸借対照表
(3)損益計算書(正味財産増減計算書)
(4)貸借対照表及び損益計算書(正味財産増減計算書)の附属明細書
以上から、次の順において定時総会までの各手続を進める必要があります。なお、記載した内容は「決算関係」に限定しています。
①会長(代表理事)が作成
○上記「計算書類(2)(3)(4)及び事業報告(1)」を作成。
○「公益目的支出計画実施報告書」を作成。
②監事の監査
○「計算書類及び事業報告」を監査。
○「公益目的支出計画実施報告書」を監査。
③理事会の開催・承認
○「計算書類及び事業報告」の承認。
○「公益目的支出計画実施報告書」の承認。
④計算書類、事業報告及び公益目的支出計画実施報告書の備え置き
⑤定時総会の招集通知の発送
⑥定時総会の開催・承認
○「計算書類」の承認。
○「事業報告及び公益目的支出計画実施報告書」の報告。
なお、「計算書類、事業報告及び公益目的支出計画実施報告書の備え置き」は新たに規定されたものであり、各法律の「備え置き」の規定から③と⑥の間は中2週間空ける必要があると、読み取ることができます。備置期間(時期)まで定められていることから、情報公開に対する責任が重くなっているといえます。
新法人移行後は、一般法人(移行法人)であれば公益目的支出計画実施報告書、公益法人であれば定期提出書類を毎期提出することになります。しかし、この提出書類だけでは法人運営が適正に行われているかどうかはわかりません。立入検査はこれらをチェックするために行われるのです。
平成21年12月24日内閣府「立入検査の考え方」によれば、公益法人については、「公益法人の事業の適正な運営を確保するために必要な限度において、法令で明確に定められた公益法人として遵守すべき事項に関する法人の事業の運営実態を確認する観点から実施」するとしています。また、立入検査の実施頻度は、「公益認定後第1回の立入検査はできるだけ早期(認定後おおむね1~3年以内を目途)に実施するよう努める。第2回以降は直近の立入検査実施後3年以内に実施」するとしています。
そして、ここからがポイントですが、「認定審査の際の申送り事項、定期提出書類、変更届出、報告徴収で得た情報…等を活用し、立入検査でなければ確認困難な事項(公益目的事業の実態など)を中心に、重点的に検査を実施」するとあり、行政庁に提出していない議事録・招集通知・議案書・監査報告書・就任承諾書・辞任届、並びにそれらの内容が定款及び各法律に拠っているのか検査されるものと考えます。つまり、機関運営の成果物チェックされるのです。検査の結果、勧告・命令、認定取消しもあり得るのでご留意ください。
一般法人については、平成20年11月21日内閣府「監督の基本的考え方」及び整備法において、立入検査は事前に計画して行うのではなく、以下のいずれかに該当すると疑うに足りる相当の理由があるときに実施するとしています。
・正当な理由なく、公益目的支出計画に定める支出をしない
・各事業年度の支出が公益目的支出計画に比べ著しく少ない
・公益目的財産残額に比べ法人の純資産額が著しく少ないにもかかわらず変更認可を受けず、将来の公益目的支出計画の実施に支障が生ずるおそれがある。
検査の結果、みなし解散もあり得るのでご留意ください。
(1)特例民法法人の予算について
従前の公益法人の制度においては、主務官庁の自由裁量による設立許可および監督の下で、公益法人の設立及び運営がされていました。特に、法人のガバナンスについて詳細な規定が民法に置かれておらず、主務官庁の監督の下、自らが規定した定款or寄附行為に基づく法人運営が求められてきました。
特例民法法人のいわゆる「旧定款or寄附行為」では事業計画及び収支予算に関する事項が規定されており、原則、事業年度開始前、つまり3月中に総会(評議員会)を開催し、会員(評議員)から承認を頂く必要があるとされていました。
(2)移行後法人の予算について
新しい公益法人制度においては、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下、「一般法人法」)」が制定され、この法律の定める枠内で自らが法人の運営についてルールを設定し、その法人の自主性に委ねることとなりました(定款自治)。裏を返せば、一般法人法の規定に逸脱しない範囲で定款を作成する必要があり、このこと自体が一般法人移行の認可要件になっています。
新法人移行後は、事業計画及び予算の承認は理事会のみとし、総会(評議員会)の承認を求めないとして定款に規定することは可能です。これは、新法人に事業計画及び予算の法的(一般法人法)な策定義務は無いことに起因しています。ただし、法人の自主的な内部管理のために、事業計画書及び収支予算書を立案し、理事会で承認を求めることを定款で規定しています。
また、一般社団法人を例として説明しますと、定款に臨時総会は「会長が必要と認めたとき…に、理事会の決議に基づき会長が招集する。」とされているケースが多いと思われます。これは、事業計画及び予算の承認について、その時の執行部(理事会)が会員のジャッジも必要と判断すれば、臨時総会を開催し、会員に事業計画及び予算の承認を求めることは可能となります。つまり、毎期予算等の承認を求める臨時総会を開催するかどうかの判断が理事会に求められます。
なお、定款に基づき理事会の承認のみ頂いた場合には、事業年度開始後の6月の定時総会において事業計画書及び収支予算書について報告することが望ましいとされています。
公益法人が作成する収支予算書は、平成16年基準における内部管理事項で示されている資金の増減ではなく、平成20年基準における法人の正味財産の全体の増減を示す損益ベースの予算になります。このため、「投資活動収支の部」や「財務活動収支の部」はなく、予算作成にあたっては当該事業年度の減価償却費や引当金の見込額を計上しなければなりません。また、資金ベースの予算において計上していた予備費という考え方もなくなりますのでご留意ください。
収支予算書にあわせて、当該事業年度において設備投資や資金借入の予定がある場合には、資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類を作成する必要があります(最終的には、電子申請することになります)。
移行後法人の決算の特徴として、特例民法法人のときとは異なり、貸借対照表及び正味財産増減計算書の内訳表の作成を求められるケースがあります(作成不要の場合もありますので、詳細について当事務所にお問合せください)。公益法人の場合、内訳表において、公益目的事業会計、収益事業等会計及び法人会計に区分し、事業費と管理費に共通して発生している費用が、配賦基準及び配賦割合に従って配賦されていないときは決算整理において行う必要があります。同時に定期提出書類の別表Fを作成しておくと効率的に作業を進めることができます。
新たな公益法人制度において、既存の特例民法法人は「公益社団・財団法人」もしくは「一般社団・財団法人」へ移行することが求められています。この一般社団・財団法人は、法人税法上、非営利型法人及び非営利型法人以外の法人(普通法人)の2つに区分されます。この非営利型法人の課税所得の範囲は、収益事業から生じた所得となっており、現行(特例民法法人)と同様になります。一方で、普通法人に該当した場合、課税範囲は全ての所得となります。具体的には、現在課税されていない入会金・会費・補助金・寄附金等まで課税が行われ、(一般的には)大幅な法人税等の増加が見込まれます。
非営利型法人に該当するための要件は複数ありますが、要件の1つに「特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを決定し、又は与えたことがないこと」という規定があります。この「特別の利益を与えること」については、次のとおり、法人税基本通達1-1-8において、その定義が明らかにされています。
(非営利型法人における特別の利益の意義)
1-1-8 令第3条第1項第3号及び第2項第6号《非営利型法人の範囲》に規定する「特別の利益を与えること」とは、例えば、次に掲げるような経済的利益の供与又は金銭その他の資産の交付で、社会通念上不相当なものをいう。
(1)法人が、特定の個人又は団体に対し、その所有する土地、建物その他の資産を無償又は通常よりも低い賃貸料で貸し付けていること。
(2)法人が、特定の個人又は団体に対し、無利息又は通常よりも低い利率で金銭を貸し付けていること。
(3)法人が、特定の個人又は団体に対し、その所有する資産を無償又は通常よりも低い対価で譲渡していること。
(4)法人が、特定の個人又は団体から通常よりも高い賃借料により土地、建物その他の資産を賃借していること又は通常よりも高い利率により金銭を借り受けていること。
(5)法人が、特定の個人又は団体の所有する資産を通常よりも高い対価で譲り受けていること又は法人の事業の用に供すると認められない資産を取得していること。
(6)法人が、特定の個人に対し、過大な給与等を支給していること。
なお、「特別の利益を与えること」には、収益事業に限らず、収益事業以外の事業において行われる経済的利益の供与又は金銭その他の資産の交付が含まれることに留意する。
上掲の通達により、「特別の利益を与えること」については明らかであると思われますが、ここに掲げられた事項は、あくまでも例示であって、これらに限られるわけではない点に注意を要します。特別の利益に当たるかどうかは、その法人が行う事業の具体的な内容等に基づいて個別に判断することになります。単に経済的利益の供与又は金銭等の交付が行われたかどうかだけではなく、それが社会通念上不相当なものであるかどうかにより判断されます。具体的に、一部の役員もしくは法人関係者が社会通念上不相当な利益を享受する場合には、「特別の利益」の供与があったと見做される恐れがあります。
もし「特別の利益」の供与が認定された場合には、非営利型法人の要件を充足しないため普通法人となり、法人税法上大きな不利益を被ることが考えられます。また、「特別の利益」の供与により普通法人となった場合、二度と非営利型法人に戻ることはできないため、ご留意ください。
公益法人の税務調査について、一般的な株式会社における税務調査と比較してご説明します。
株式会社は、同族会社のケースが多く、株主も経営者も同族関係者という傾向が多くみられます。このような場合、会社経理に対する外部からの牽制が働かないので、役員報酬を不相当に高額に決めたり、勤務実態のない家族に給与を支払ったりするというような、同族間に都合のよい恣意的な経理が行われやすく、また極端な場合には、売上を除外して代表者が私用に使ったり、架空の人件費を計上して不正に蓄財するなどの、不正経理が行われやすい環境にあると言えます。また、ある程度規模の大きい法人、例えば資本金が1億円以上あるような法人は非同族の会社が多く、さすがに同族会社のような恣意的な経理はあまり行われません。しかし、特定の部署における不透明経理、例えば営業部などが当期の売上の予算を達成してしまったので、本来なら当期に計上すべき売上を意図的に翌期に繰り延べたり、また交際費の予算が限られているので、領収書を改ざんして会議費や雑費にするというような経理がなされる恐れがあります。法人の経理部とは関係のない、限られた特定部署の処理であるというような言い訳は通用しません。これらは不正経理と見做され、重加算税の対象になります。したがって、株式会社の税務調査は、このような不正経理をしていないかどうかの観点から調べられます。
これに対して、公益法人等は本来営利の追求を目的とするものではなく、公益事業・共益事業の遂行を目的として設立された法人です。また、税の優遇措置が設けられており、社会的関心も高いことなどから、税務当局は法人の事業実態の把握及び調査の充実に取り組み、適正・公平な課税に努めているものと考えます。
公益法人等の収入の内訳は会費、寄附金及び補助金が主になっています。これらは法人税が課税されない収入になりますので、そもそも税金をごまかそうというような動機は働きません。法人税法上の収益事業を実施していない、このような公益法人等の税務調査は、もっぱら源泉所得税の課税が適正に行われているかどうかの観点から行われます。ただし、法人税法上の収益事業を行っている場合は、少し異なります。公益法人等が収益事業を行う場合には、その収益事業から生じた所得に対して法人税が課税されるからです。
なお、法人税の課税範囲は別紙(←クリックしてください)の通りになっています。収入が収益事業から得られた収入なのか、収益事業以外の事業(非収益事業)から得られた収入なのかによって、課税される所得金額が変わってきます。この収益事業は法人税法で次のように定められており、物品販売業や製造業など合わせて34の業種が列挙されています。
法人税法
第二条 十三 収益事業販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいう。
税務調査では、各種収入が収益事業34業種に該当するかどうかの検討から始まります(当会は、『請負業』『物品販売業』に該当する収益事業を行っています)。収益事業に該当すれば、法人は収益事業の経理と非収益事業の経理とを区分して行わなければなりません。収入と併せて、費用の検討も必要です。それぞれの費用が収益事業の費用なのか、非収益事業の費用なのかによって課税される所得金額が変わってきます。また、一つの事業所内で、収益事業と非収益事業とを行っている場合は、事務所の維持管理費、減価償却費、人件費等は両方に共通して発生します。このような場合の区分計算は、継続的に、資産の使用割合や従業員の従事割合、また収入金額の割合など、その費用の性質において合理的な基準を設けて行うことになります。費用の配賦割合が変わるだけで課税所得に大きな影響を及ぼします。税務調査における指摘内容の多くは、「非収益事業に係る費用を収益事業に係る費用として経理している」であり、適切な区分経理が求められています。
既に一般社団・財団法人に移行された法人様もいらっしゃると思いますが、ゴルフ場の公益認定は異例であり、行っている事業に公益性を見いだすことが大変難しいと言われています。当事務所ではゴルフ場の公益認定申請のお手伝いも行っております。その具体的な手法は、・・・まずは石川広紀税理士事務所までお問合せください
(TEL:052-253-6222)。
公益法人のなかで、ある意味最も知られているのは「財団法人日本相撲協会」ではないでしょうか。一連の八百長問題に伴い、平成23年3月大阪場所の中止、続いて5月は本場所とは異なる技量審査場所として開催されることになったのは記憶に新しいところです。そして、この八百長問題から、わが国の公益法人制度改革が改めてクローズアップされたのはご案内の通りです。ここで、相撲協会の新法人移行について考えてみます。日本相撲協会の寄附行為(目的)では、「わが国固有の国技である相撲道を研究し、相撲の技術を練磨し、(略)相撲道の維持発展と国民の心身の向上に寄与することを目的とする」とあります。ここから協会は競技(スポーツ)としての活動だけではなく、伝統文化にも重きを置いていることが読み取れます。確かに土俵入り、弓取り式、相撲甚句、番付の相撲字など、数ある様式や業は他では見ることが出来ません。協会は平成25年7月9日に評議員選定委員会を名古屋市内で開き、移行後の評議員6名を決めたようですが、期限である11月末まで時間がありません。既に申請内容は固まっているかもしれませんが、いっそのこと、力士による取組といった競技(事業)を捨て、伝統文化の保護を主要な事業として手続を進めてはいかがでしょうか。ただ、無事に移行手続が完了しても、スポーツとして大相撲を見ることはできなくなりますが…。(平成25年7月10日記述)